事例|No.010

Before

After

今回、お預かりした製品は65号肘掛椅子。初見ではマルニ製品かどうかもわかりませんでしたが、裏面に「孔雀マーク」がありましたので間違いなくマルニ製品で、昭和28年(1953)ころ発売、昭和38年(1963)までカタログに掲載があったとマルニ木工創業50年史に辛うじて掲載がありました。実に半世紀以上を経てリフォームに戻ってきました。

65号肘掛椅子は応接セットの初期のもので今日のリビングセットの源流となったと言われた(65号には一人掛け以外に二人掛けもあった。)興味深い製品です。一般家庭では戦後しばらくの間はちゃぶ台が主流、団地の登場は昭和30年に入ってから、応接セットに取って代わるのは昭和30年半ば以降であったので、商品開発として先駆け的とも言える。

そして木部はブナ材。おそらくは国内材、もしかすると中国山地のものかもしれない。マルニ由の地、廿日市は中国山地の木材を積み出す拠点であり、中国山地のブナ材が創業時の曲木椅子の発展の礎でした。

しかし戦後復興で、生活様式は洋風化、家電時代の幕開けで、テレビ、こたつなどの普及で木材需要は高まり、昭和30年後半には国内材は枯渇、輸入材へ切り替わり、家具業界のモノづくり、取り組みが変わり始めた時期がこの頃でした。 

リフォームの製品は、写真でもお分かりのように座面が底抜け、座裏からコイルバネが出てきてさらに藁が細かく吹きこぼれている状態でした。こちらを全て分解してコイルバネを組み直しクッションになる素材を張り直していきました。ファブリックは、もともとのエンジのモケットに近いものを再び張り込みしました。座面の膨らみが見た目にも違います。そして木部の肘、脚部にも塗装を施しました。

全て完成しましたら古さを感じるどころか、現行製品といってもおかしくない可愛いさです。戦後まなしの製品はコンパクトなもので、過飾でないシンプルな装いは時代を感じさせません。座面が底抜けしてからは座って寛ぐことはできなかったと思いますが、また愛着をもってお使いいただけることでしょう。65号肘掛椅子は製造されて50年以上経過したものでしたが、木部がしっかりしたものでしたのでリフォームで蘇りました。もし思い出のある椅子が、座り心地が悪くなったままになっていましたらリフォームして気持ちよくお使いいただいてはどうでしょうか。当時の思い出も蘇ることでしょう。