2020年9月18日

木部修理(K様邸)

昭和3年12月20日(木)誕生。

曲木椅子第一号と呼ばれるこの椅子は、マルニ木工が創業し、初めて製品化した弊社の中でも思い入れのある椅子です。
初代 代表取締役社長の山中武夫が「木」という素材を生かしてみたいという夢を抱いてから、様々な試行錯誤の末、工場を創設し、それからさらに約7か月後にやっと思い通りの曲木椅子が誕生したことは、よほど嬉しかったのだろう、と社史に記録があります。

今回、この椅子の木部が割れてしまったので、修理してほしいとのご依頼をいただきました。

1. 木部接着

このような割れの場合、一度部品を取り外し、割れてしまっている箇所を接着し、接着した部品を再度組み立てるという作業になります。
ただ、一度分解して、ビスを取ってしまうと、ビスが変形し、使えなくなるかもしれないという問題がありました。
このビスはおそらく製造当時に使われていたビスだと推測されます。このビスが、今のビスに変わってしまっては、この椅子の良さが損なわれると思い、分解はせずそのまま修理することになりました。

隙間に接着剤を注入し、クランプと呼ばれる器具で木部を押さえつけます。
そのまま押さえつけようとしても、クランプの接地面がカーブを描いているため、うまく力がかかりません。
そこで、木を加工し、力がうまくかかるような道具(左写真)を製作しました。

2. 研磨・着色

木部接着が終わった部材には多少、段差が生じてしまっています。それを平らにするため、磨いていきます。
研磨したのち、塗装を施しますが、部分塗装のため、色を付けた部分に違和感が出ないように塗装を施していくことは職人の腕の見せどころです。

3. 完成

木部修理は、割れ具合がそれぞれ異なるため、イレギュラーなことの連続です。
割れの程度がひどい場合、直らないというケースも出てくることもごく稀にあります。
今回お預かりをするときも、お預かりしてみたものの直らないケースもありますとお伝えしたところ、K様からは「それでも良いので一度修理してみてください」とおっしゃっていただきました。
弊社では『100年経っても「世界の定番」として認められる木工家具をつくり続ける』というビジョンを掲げており、流行に流されないデザイン、壊れにくい椅子の構造ということは100年経っても認められ愛され続けるうえでとても重要なことです。
ただ、最終的にお客様が直してでも使いたいと思っていただかなければ、残っていく家具にはなり得ません。
K様のように直せるかどうかわからない状況でも直してほしいと思っていただけることは本当にありがたいことだと改めて感じました。

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修理のお問い合わせは こちら

【木部修理についての注意点】
割れの具合によって、修理の可否、金額は変わってきます。